英国の庭から~海外生活ブログです

オランダで還暦を迎えた駐妻。英国での5年弱、2度目の駐在生活を終え、オランダ生活も3年を過ぎてしまいました。けたところでロックダウン入り。できる範囲で何をしようかと模索中。

そしてクリスマスの総選挙へ(ブレグジット その42)

 

英国議会は12月6日未明に解散し、12月12日の総選挙に向けての活動が始まりました。今日は前回報告時から選挙までの大まかな見通しについて報告します。

 

 

ブレグジットはしばらく棚上げ

英国のEU離脱は10月28日にEUが最長で2020年1月31日までの離脱延期を認めました。ボリス首相がめざしていた10月末の離脱はなくなり、ノーディールの危機は遠のきました。その翌日の夜、英国下院は、政府が提出した下院議員選挙を求める法案を賛成438票、反対20票で可決しました。

「離脱か、死か」「延期を申請するくらいならドブで死ぬ方がましだ」などと豪語していたボリス首相ですが、念願の選挙に向けて走り出すことにしたようで、何事もなかったかのようにしゃあしゃあと生きています。

「死ね」「死ぬんじゃなかったのかよ」「ドブはどうした」などといった罵倒の声が聞かれないあたり、英国人は大人です。

 

新ブレグジット法案は新議会で審議

首相が10月17日にEUとの間でまとめてきた新離脱協定案と新政治宣言案は、第2読会まで可決したものの、第3読会で可決されなくては、批准できません。これは総選挙で選出された議員によって審議されます。仮に離脱撤回を掲げる自由民主党が大勝すれば、廃案となる可能性もあります。

新合意案の内容は、メイ首相がまとめたものより、アイルランド・北アイルランド間の国境管理に関する「バックストップ」という言葉こそ削除されたものの、それ以外の部分では英国が譲歩する部分が多い内容だそうです。

10月30日に国立経済社会研究所が発表した、ボリス首相の新合意に基づく離脱では、EU残留と比べて3.5%もGDPが縮小するのだそうです。

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新合意案では、英国とEUの将来の通商関係についても、関税同盟を発展させた関税取り決めではなく、自由貿易協定(FTA)とすると明記されています。そうすると、EUの一員として享受してきた各種簡易化措置はいったんすべて放棄して、新たな交渉でEU側からその権利を勝ち得ないといけなくなります。

こうした不利な協定を結んでいいのか、それとも離脱を棚上げするべきなのか、新しく選ばれる議員につきつけられることになります。その結果、1月末にノーディールになる可能性もまだ残っています。

また、保守党が大勝し、1月末に円滑に離脱したとしても、2020年末までの移行期間中にEUとの交渉がうまくいく保証はありません。移行期間をさらに1~2年延長する可能性がありますが、交渉決裂となれば、またもやノーディールの可能性が出てきます。

英国には、広大な専管漁業水域での漁獲権ぐらいしかEUに提供できる玉がないので、老練なEUから譲歩を引き出すことができるのかどうかはわかりません。

選挙で票数が割れる可能性大

ボリス首相としては、総選挙でぜひとも大勝し、議会の過半数を得て、民主主義的に選ばれた首相として、離脱への手続きを進めたいところです。しかし、有識者や一般の意見を聞いていると、単独過半数を取る党はなさそう。

最新の世論調査では次のようになっています。

最新の世論調査では11月、保守党38%、労働党25%、自由民主党16%、ブレグジット党11%、スコットランド国民党6%、緑の党5%などとなっています。

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YouGov世論調査(11月5日)

保守党は今のところ、38%の支持率を集めていますが、ボリス首相自身が選挙区で当選できるかどうか危ぶまれているという説もあります。

また、これまでリース・モグ下院院内総務は選挙区の地盤がしっかりしていたのですが、一昨日、昨年グレンフェルタワーの大火で焼死した犠牲者について「常識があったら消防士が何と言おうと避難していただろ」と死者に鞭打つような失言をして叩かれまくっています。

少し前に保守党の重鎮ばかり20名以上も除籍処分をした結果、安定議席の半分以上を失う可能性もあります。これに加えて、前回選挙で保守党躍進の功労者だったスコットランド保守党の女性ルース・デービッドソン党首も辞任してしまいました。

 一方の労働党の不利な点は、保守党との対抗上、残留派の票を集めていくことが有利であるにもかかわらず、多くの選挙区で離脱が優勢だったこと、コービン党首自身が離脱を支持しているために、党として、離脱も残留も明確な指示を打ち出すことができない点です。党内の議員とコービン党首とその取り巻き達との関係もぎくしゃくしていて11月6日にはトム・ワトソン副党首がいきなり辞任しました。

こうした状況の下、おそらく多くの浮動票はこの2大政党ではなく、EU残留派であれば自由民主党へ、環境保護が気になれば緑の党に投票することになるでしょう。

そうなると、今まで同様、過半数を抑える政党がいない状態が続くことになるだろうという予想が高まっています。そして、ブレグジットはいつまでも進まないままダラダラ続くというわけです。

という訳で、相変わらずすっきりしないブレグジット情勢です。

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Peter Brooks 画 https://twitter.com/Cartoon4sale/status/1192180314669494273