英国の庭から~海外生活ブログです

オランダで還暦を迎えた駐妻。英国での5年弱、2度目の駐在生活を終え、オランダ生活も3年を過ぎてしまいました。けたところでロックダウン入り。できる範囲で何をしようかと模索中。

土足で室内に入るヨーロッパの習慣

こんにちは!ご無沙汰しております。

コロナが日本やアジア諸国よりも欧米で犠牲者を多く出しているのですが、その理由の1つとして、土足の生活が疑われています。

私も子供の頃、ドイツの友人の家に行き、土足のまま室内に入りそのまま床に座ったり腹ばいになったりするので、驚いた覚えがあります。家中、ばい菌だらけですよね。

と言うわけで、今日は土足で室内に入る習慣についてお話ししましょう。

靴を脱ぐ習慣があるのは日本だけではない

室内に入るとき靴を脱ぐ習慣がある国というのはどれくらいあるのだろう?と思っていたら、すでにWikipediaに「靴を脱ぐ習慣」と言うページが作られていました。なんと地図付きです。緑が靴を脱ぐ国、青が土足のまま家に入る国です。靴を脱ぐのは、日本だけじゃないんですね。(図はWikimedia CommonsからS.Örvarr.S 作成)

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青いところは西欧から移民していった人が中心の国が多いです。そうなるとなぜ、西欧の人は靴を脱がないで生活してきたのか、考えてみました。

 

 足が冷えるのを防ぐ

日本の家は「夏を基準に建てる」と聞いたことがあります。高温多湿の日本では、床を高くして、窓を大きくして、床下や家の中など換気をよくすることで衛生を保っていたのです。地面から床を相当高くして、そこに板を張り、畳をのせています。そうしてできた床に直接寝たり座ったりするので、必然的に履物を脱ぐようになったのでしょう。

一方、欧州での衛生や健康で重視されたのは「冷やさない」ことでした。住宅の窓は小さく、室内の暖気がもれないようにします。ガラスが発達した現代でこそ、窓の大きい家も多いですけど、中世の城にいくと、そもそも窓にはめるガラスもなく、細い石の明り取りが開いているだけ。それでも暖気が逃げてしまうので、冬場はその前にタペストリーなどを垂らしてしのいでいたようです。

冷えると病気になってしまうので、昔は入浴は極力控えたそうです。せいぜい台所の隅で、たらいで行水するくらい。体は拭くだけだし、産湯の習慣もありません。下はオランダの画家Wallerant Vaillant (1623–1677)による「若い女性と3人の子」(オランダ国立美術館蔵)と言う絵で、1650年頃に書かれたものですが、母親の大きく開いた襟元に比べて、赤ちゃんの重装備なこと。保温を重視していることがよくわかりますね。

 

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Wikimedia Commonsから

 

実際に7月上旬の今日、オランダの家の1階で椅子に腰かけてパソコンに向かっていても足元からどんどん冷えてくるのです。欧州は夏になっても地面の温度が上がりきらないうちに秋になってしまうのですね。これが西洋人が靴を脱がない理由だったように思います。中世の頃はテムズ川も凍る位、今より寒かったでしょうし。

靴を履きっぱなしにすると確かに冷えない。今、私はcrocsのサンダルを室内履きにしていますが、こういう外で履けるぐらい、底が厚いものでないと、寒いです。

また、降雨量も少ないので、地面も乾燥していることが多いのも、靴を脱がなくて済む理由だったでしょう。それでも床の汚れ防止を兼ねて、中世の城や館は床に井草を敷き詰めて、それを定期的に交換していたようです。庶民の家は床はたぶん土間なのでそのままだったかもしれません。

人前で靴を脱ぐ習慣がないと、靴の中や靴下は必然的にボロボロでも平気になりますから、何かあって脱ぐ羽目になったら大慌てです。これが人前で靴を脱ぐのは恥ずかしいとなり、タブー視されたのかも。まあ、よくわかりませんけど。マスクを嫌がるとか、靴を脱ぎたくないとか、探っていくと色々な文化的背景がありそうです。

 

20世紀初めまで部屋の汚れ防止に高下駄を使用

中世から近代となり、人口が増えると地面には大量の馬糞や人間の排泄物があふれるようになりました。さすがに糞がついた靴を履いて室内に入ると部屋が臭くなってしまうのでどうするのかな?と思っていたら、英国バースのファッション博物館がその答えを出していました。

この写真はパッテンPattenというもので、靴の下にはいて、下駄のように背を高くしてくれるのです。履きにくそうですが、中世から20世紀の初めくらいまで、誰もが履いていて、ドアの外で脱いだようです。

都市の石畳などではこのパッテンの音が響き渡っていたようで、ジェーン・オースティンはバースの町に響くパッテンの音と書いているそうです。

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バース・ファッション博物館のツィートから https://twitter.com/Fashion_Museum/status/1272886970407141382

このように定着した欧州の室内で靴を履く習慣ですが、衛生に対する観念が代わり、同じヨーロッパでもドイツや北欧では靴を脱ぐ人が増えたり、コロナを機に、家に入ったら靴を脱ぐ家が増えているそうです。暖かい室内履きも多く見かけるようになりました。それでも、来客に脱ぐことを強要するにはいたっていないようです。

今後、それが変わっていくのか、それともあくまでも靴を脱がない習慣は続き、そのかわりに玄関先に靴の裏のばい菌を除去する装置でも開発されるのか、それはわかりません。