英国の庭から~海外生活ブログです

オランダで還暦を迎えた駐妻。英国での5年弱、2度目の駐在生活を終え、オランダ生活も3年を過ぎてしまいました。けたところでロックダウン入り。できる範囲で何をしようかと模索中。

欧州議会選挙結果とメイ首相辞任をどうみるべきか(ブレグジット その33)

わっ、偉そうなタイトルつけちゃいました。私が一時帰国とチェルシーフラワーショウの余波で浮かれている間に、英国の政局に変化がありましたので、ご報告します。

 

欧州議会選挙結果は、実は残留派の方が優勢

先週から今週日曜日までに欧州議会議員選挙がEU各国で実施され、英国では5月23日(木)に投票が行われました。他の欧州諸国の投票に影響を与えてはいけないとの理由から、開票は26日(日)の夜22時から開始されました。投票率は37%でした。ナイジェル・ファラージ欧州議会議員率いるブレグジット党が事前の世論調査通り、30.5%をとって首位となりました。 
この選挙結果について、ニュースでは「ブレグジット党が大勝利」と報道され、ファラージ党首は勝利の喜びを全面に表し、「この勢いで総選挙でも勝利してブレグジットを実現する」と大言壮語しています。確かに、ブレグジット派が勢いづいているのは間違いないのですが、この選挙の結果をよく見ると、離脱派は大して勝利していないのです。
以下の表をご覧ください。緑が残留派です。票がいくつかの党に割れているだけで、合算すると40%を超えており、離脱派を上回っているのです。

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(出所)http://www.ukpolitical.info/european-parliament-election-turnout.htm
しかも、選挙前からブレグジットが暗礁に乗り上げており、特に保守党と労働党内の強硬離脱派がブレグジット党に流れた可能性が高いことを考えると、おそらくブレグジットを真に望んでいる層の投票率は高かったと考えられます。そこから計算して、投票率37%×33.7%=12.5%、つまり、英国民で強硬にブレグジットしたいと考えている層は、もしかしたら15%程度かもしれないと思います。

メディアの見出しは鵜呑みにしてはいけないということがこれでよくわかります。しかし、だから再度国民投票や総選挙をして残留派が勝つかどうかと言われれば、やっぱり水物で、「よくわからない」というのが正直なところです。EU条約50条に基づく離脱申請を撤回すべきとする請願は600万を超えたところで伸び悩んでいますし、どの程度の人が撤回に賛成なのかもよくつかめません。

 

メイ首相、6月7日に辞任すると表明

選挙翌日の24日(金)、メイ首相が6月7日(金)に保守党党首を辞任すると表明しました。涙ながらに「愛する英国」と語る姿に若干気の毒な気もしました。本人に辞意は全くなく、保守党内部の厳しい突き上げにより、ブレグジット膠着の責任をとらされて不承不承辞任日を決めたという感じです。

先日の地方議会選挙での大敗は、メイ首相が就任以来進めてきた強硬離脱派と残留派の融合、あるいは両者のバランスをとるというやり方では、誰も満足させることができなかったということを示しています。そもそもブレグジット問題をめぐる対立軸は、どうやっても融合できるはずがないのです。かねがね書いてきたように、北アイルランドを領有している限り、摩擦ない離脱は不可能です。それをきちんと見据えることなく、「ブレグジットを自分が実現する」と空手形を切ったことに問題があったということでしょう。発足当初からこの日が来ることは明らかだったように思われます。

 

ジョンソン前外相が後継候補として有力視されていますが

 さっそく翌週から続々と新党首に立候補する表明がされています。今のところ全員が離脱派です。正式な立候補受付は6月10日の週だそうで、7月中下旬に選出される見込みです。メイ首相はそれまで首相の座にとどまるそうです。 

後任候補に立候補した、あるいはすると見られているのは、かねがね首相になりたくて仕方がないという様子を隠しもしないボリス・ジョンソン前外相、ドミニク・ラーブ前EU離脱相(2011年に女性蔑視ともとれる発言有り)、マイケル・ゴーブ環境・食糧・農村地域相(国民投票直後に友人付き合いしていたジョンソン外相を蹴落として党首選に立候補しようという裏切り行為が奥さんから漏れちゃったという人格上の疑問点有り)、アンドレア・レッドソム前下院院内総務(この人は欧州議会議員選挙前日にメイ首相を見捨てて閣僚を辞任)、ジェレミー・ハント外相(あまりに日本びいきで奥さんが中国人なのについ日本人と説明してしまった愛すべき人物ですが、EUをソ連にたとえた汚点有り)などです。

賭け屋大手ラドブロークス(Ladbrokes)の5月31日時点のオッズ(掛け率)をご紹介しましょう。

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Ladbrokes ”Next Prime Minister odds” Wed 05.06.06 23:59

ちなみにこの「掛け率」ですが、2/1とある場合、予想が当たった場合は掛け金を孵したうえで、掛け金の2倍を払いますという意味です。

賭け率だけだと、ジョンソン前外相が優勢に見えますが、無責任、大嘘つき、舌禍の主という悪評の宝庫のような人物です。「ボリス・ジョンソンを止めよう」という動きがあちこちから始まっています。また、ジョンソン氏は5月29日、2016年の国民投票前に「英国はEUに毎週3億5000万ポンドを支払っている」という虚偽の情報を拡散したとして、裁判所から出廷を命じられています。(詳細はBBCニュースをご参照)

保守党の党首選出方法は、国会議員の投票を繰り返して、人数を絞っていき、最後に全党員の投票にかけるというものです。2016年のメイ首相選出のときは、最後に残ったアンドレア・レッドソム氏が辞退したため党員投票はありませんでした。

一番人気のジョンソン氏ですが、これはあくまでも私見ですが、党内国会議員の支持が少ないことから、一般党員投票までもたないのではないかと思います。では誰が最後まで残るかというところですが、「いずれも小粒で、どうもね・・」と言う感じです。誰がなってもメイ首相と同じ問題を抱えるわけだし、相変わらず堂々巡りが続くような気がします。(ゴーブ氏がここにきて急に上位にあがってきています。あまり風采がよくなく、誠実さという点でも疑問がありますけど。)

しかし、恐ろしいのは、立候補しているジョンソン氏、ラーブ前EU離脱相などが「10月末にノーディールでも良いからEUを離脱すべし」「ノーディールでも英国経済は盤石、全く問題ない」と唱えていることです。

欧州議会選挙とメイ首相辞任で、10月末にノーディールで離脱する危険が増したと言えるでしょう。そういうわけで、英国の先の見えない状況は当面続きそうです。今日の漫画は首相選候補者を乗せた2階建てバスです。

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Patrick Blower画