こんばんは!今、2019年10月21日の未明です。先週後半、ブレグジットについて3つほど大きな動きがありました。それについて、まとめて報告します。
- ボリス首相、欧州委員会と新たな離脱協定案で合意
- あまりスーパーじゃなかったスーパーサタデー議会
- ボリス首相はEUに署名のない手紙を送付
- ボリス離脱合意案で離脱して大丈夫なのか?
- 10月中の承認はあるか?
ボリス首相、欧州委員会と新たな離脱協定案で合意
前回ご報告以降、議会は再開したものの、労働党や保守党などの大会、エリザベス女王による施政方針演説(10月14日)などのため、ブレグジットに関する討議はないまま時間が過ぎて行きました。
その間に政府の交渉チームはブリュッセルでEU側と交渉を行い、10月17日午前、新たな離脱協定案について合意を獲得してきました。
EUは、再交渉には応じないと言い続けてきたのに、再交渉に応じたばかりか、それなりに譲歩もしました。
つまり、これはボリス首相の手柄です。だから本人は鼻高々。「主権を取り戻す素晴らしい新合意」と自画自賛。早急に国会で承認するようにと、まるで鬼の首でもとったような様子です。
さて、その内容ですが、ほとんどメイ首相の離脱協定案のままで、大きく2点がメイ首相の離脱協定案と違っています。1つ目は北アイルランドの取り扱い、2つ目は英国の移行期間後のEUとの関係です。
これについて、BBCが解説しているのが一番簡単です。また、詳しいのはジェトロの短信です。ご関心ある方はこれらをご覧いただくとして、ポイントだけ挙げると次の通りです。
1.英国側が最も嫌った懸案の「バックストップ」措置は撤廃。
2.アイルランドと北アイルランドの間に物理的な国境は作らない。そのため、北アイルランドへの輸入品にはアイルランドと同じEUの規格・基準、税率(関税・物品税など)、動植物検疫ルールを当面の間(あるいは未来永劫)維持する。ただし、北アイルランドへの輸入品にかかる税は認定輸出者などの制度を使って英国の税当局が徴収(多くの場合、電子申告)する。
3.北アイルランド以外の英国の地域から北アイルランドに出荷される品は、そのままアイルランドに流れてしまうリスクがあるので、必要に応じてEUが求める検査を行い、EUに再輸出される品については関税を徴収する。
4.EUとの将来関係は、二国間自由貿易協定を締結し、関税同盟には残らない。
5.EU側が恐れる離脱後の英国の「良いとこどり」を防止するため、公正な競争条件(レベルプレイングフィールド:LPF)について細かく指定。
とざっと書いてみましたが、これを読まれて、すんなり理解できるでしょうか?
あまりスーパーじゃなかったスーパーサタデー議会
前々回お伝えしたベン法(ノーディール阻止法)では、10月19日時点で離脱協定案が議会に承認されない場合、首相はEUに対して離脱延期の手紙を書かなければいけないと定めています。
そこで、ボリス首相は、10月19日(土)に議会を招集、新合意案を同日中に承認するよう求めようとしました。ちなみに、週末に議会が開かれるのは37年ぶりだそうで、スーパーサタデー議会と報道されました。
しかし、野党が大勢を占める議会です。ボリス首相の要求通りに承認するつもりはありません。ここで合意案をすんなり承認して10月末に離脱が実現すれば、ボリスは「離脱を実現した首相」として英雄扱いされるかもしれません。裁判所の違法勧告も、議会の要求も無視するような男です。このまま長期政権になだれ込んでしまうでしょう。
そこで、野党からは修正法案がいくつも提出されました。その中からバーコウ下院議長が離脱合意案に先立って審議するよう選んだのが元保守党員オリバー・レトウィン議員が提出した修正案です。
レトゥイン修正案の内容は、ノーディールでの離脱の阻止が主目的。協定案が下院通過後に上院で却下されたり、可決後の法制化プロセスで一部の議員が態度を変えたりといった不測の事態にノーディールで英国が離脱してしまわないよう、離脱関連法※が全て成立しない限り、離脱協定(EUとの離脱協定と政治宣言をさす)の承認をしないというものです。(※離脱関連法とは、EUとの合意を英国の法律の形にしたEU離脱法をいいます。また、それぞれの議員から提出される修正法案などがあれば、それも反映したものとなります)
その採決は322票対306票で可決されました。賛成したのは、労働党、政権に閣外協力する北アイルランドの民主統一党(DUP)、保守党で造反し党を追放された議員などです。
これにより、19日中のボリス合意案の審議はなくなり、翌週に審議が持ち越されました。
ボリス首相はEUに署名のない手紙を送付
さて、こうなるとベン法の規定により、ボリス首相は10月19日中にEUに10月末の離脱期限を延期するようEUに依頼する手紙を書かなければいけません。
何しろ延期申請するぐらいなら「ドブに落ちてのたれ死んだ方がマシ」とさえ言っていた男。レトゥイン法案が成立直後にもまだ「10月末に離脱する」とスピーチしたくらいです。
英国議会の状況を見て「手紙を待っている」というトゥスク欧州理事会議長(大統領に相当)のからかうようなツィートもあり、さらに同大統領やマクロン大統領、メルケル首相などとも電話会談したようで不承不承、夜10時過ぎにEU宛に手紙を書きました。
しかし、呆れたことに離脱期限の延期を求める公式の手紙には署名をせず、さらにもう1通、私信をつけて、「延期は間違いだと思っている」と書いて署名したそうです。小学生の手紙じゃあるまいし、情けなすぎ。
これに対して、議会で定められた国の法に反しているとして週明け以降、裁判所に訴えると多くの司法専門家たちがツィートしています。
ボリス離脱合意案で離脱して大丈夫なのか?
日本のメディアなどを見ていると、EUと国同士で合意したのだから、それを議会が承認するのは当然で、議会が駄々をこねているという印象かもしれません。
しかし、そもそも、上述の私のまとめを見ても、何が何だかわからないでしょう?議員だって同じです。それを1回の審議で承認しろと要求する方が無理。
さらに法律学者から北アイルランドの課税法と矛盾している、アイルランドと英国の政府間で2017年に締結した合意書に矛盾しているとか、様々な指摘が出ており、アイルランド政府もこの合意案を承認していません。民主統一党(DUP)が賛成しなかったのも、北アイルランドだけをグレートブリテンから切り離す内容で、グッドフライデー合意に矛盾すると考えているからです。
もうひとつ、この合意内容による、経済的な影響についての試算を19日の国会で自由民主党員が質問したところ、スチーブン・バークレイ離脱担当省は「調査していない」と回答しています。つまり、合意による長期的な影響が全く精査されていないのです。それなのに、首相官邸は保守党員たちに党内拘束で合意を強要し、さらに「合意しなければブレグジットが実現できなくなるぞ」と離脱派の労働党員にゆさぶりをかけているのです。
10月中の承認はあるか?
保守党はレトウィン修正案の議決状況から保守党内の造反が出ていないこと、メイ首相の時のような大差での負けてはいないことから、むしろ自信を深めたようです。そして、あと12票、離脱派の労働党員や自分たちが追放した保守党員、DUPを説得して形勢逆転を狙っています。
しかし、こんな得体の知れない合意案にどれだけの議員が賛成に転じるでしょうか?
国の将来を考えず、党の利益だけを考えているとして、保守党員への批判や、19日に議会でボリス合意案に投票するよう発言したメイ前首相への批判も高まっています。
しかも、19日の議会の周辺には100万を超える群衆が再国民投票を求めて行進しました。
というわけで、今週の議会の攻防が注目されていますが、ブレグジットの行方は依然として混とんとしていて、次に何が起こるかわかりません。レトウィン法案により合意なしの離脱の可能性は若干減ったとされていますが、まだまだ分からない状況です。
今回の漫画はドブでのたれ死ぬボリス首相(その前に裁判にかけられそうですけど)