こんにちは。このところブレグジットとガーデニングの話ばかり書いていましたが、先週、非常に恥ずかしいのですが、稀な経験をしたので、ご報告させていただきます。
表題にも書きました通り、巷で噂の「国際軍人ロマンス詐欺」にひっかかりそうになったのです。今日はその手口をご紹介しましょう。
出会いのきっかけはTwitter
今回の妙な出来事は7月15日(月)夜10時ちょっと前、ぼけっとTwitterを眺めていた時に始まりました。Twitterには「はてなブログ」同様、フォロワーがつけば教えてくれる仕組みがあります。私が英国人を多くフォローしていることもあり、時々、外国人がフォロワーに入ってきます。多くの場合、語学の問題もあって無言フォローですが、今回、たまたま日本語で「ごきげんよう」とダイレクトメール(DM)を送ってきた方がいたのです。DMはリアルタイムであればチャットができます。
私もちょうど、PCの前にいたこともあり“How do you do?”と返信してしまいました。すると、すぐに
Wow, you speaks English? Am good. And you, how are you doing, hope all is well with you?
という風にチャットが始まったのです。
突然のチャット開始に驚きつつ、「どういう人なのかしら」とむくむくと興味が湧いて、相手のプロフィールをみてみました。するとすごいの!
United States Air Force four-star general i serve as Commander, Pacific Air Forces and Executive Director, Pacific Air Combat Operations Staff at Hickam
翻訳しますね。
米空軍4つ星将軍、司令官、太平洋軍航空部隊とヒッカムの太平洋軍航空戦闘オペレーションスタッフのエグゼクティブディレクター
はて、四つ星将軍が何だかよくわからないけど、将軍ですって!わぁお!
というわけで、そのままチャットを続けてしまいました。
すると、現在は2年の任期でアフガニスタンのカブールに駐屯する司令官であり、基地から話をしているということがわかりました。しかも8カ月後に引退する予定だというのです。
I was deployed from Iraq to Kabul, am on 2 years mission ,I just have less than 8 months to spend here before my retirement.
そのまま、「将軍」とチャットしたところ、大変気の毒な話が始まりました。
なんでも21年間連れ添った奥さんが4年前に白血病で亡くなり、現在13歳の息子、Richieはテキサスの寄宿学校にいて、もう11カ月も会っていないというのです。
さらに、そのRichie君は母親がいないことを理由に同級生達にいじめられている(!)というとても気の毒な話が始まったのです。離婚率やシングル親比率が高い米国でそんなことでいじめられるのかなぁ?と不思議に思いつつ、「Richieは、あなたに構ってほしいのでは?」と無難なコメントを返して、その日はおしまい。
チャットしているうちに違和感が
翌日、家事を終えてまたもや10時頃、PCを開くと、「将軍」から「待ってました」とばかりメッセージが届き、チャットが始まってしまったのです。この時も、1つ1つはあまり重要でない文章を積み上げていたただけですが、いぶかしく思うことがいくつかありました。
- 基地からのTwitterは、軍では好ましくないので、Googleのハンズアウトアプリをダウンロードできないかと言うのです。私はハンズアウトを使ったことがないし、WhatsAppもめったに使わないので、あまりダウンロードしたくなかったのですが、何度も言われるのでためしにダウンロードしてみました。すると幸か不幸か、私のスマホでは何か不具合があるらしく、作動しなかったのです。
- 大してロマンチックな会話でもないのに、相手がやたらと私をほめてくれました。そして、まるで恋でも始まったように急激に相手が盛り上がっていきました。
- さらにもうひとつ、こちらが決定的だったのですが、Richieが犬を飼っているという話になり、「寄宿学校ではだれが犬の面倒を見るの?」と聞いたところ、「専属メイドがいる」というのです。「大丈夫、自分の月収は14万5,000ドルだから」と言われて驚いてしまいました。えええ?だって月1,500万円の給与?いくら米軍の幹部の報酬が高いといっても、それはどう考えても多過ぎじゃない?
さて、このあたりから私の違和感が急速に高まったのですが、「将軍」はすっかり押せ押せモード。何やら会話にMy SweetだのMy Dearだの入ってきて、会話の最後にはすてきなバラの花束の画像が・・(「釣った魚には餌をやらない」主義のわが夫とは対照的)
しかし、実はこのチャットの間中、夫や娘が近くをうろちょろしていて、私は気分的にそういう甘い雰囲気には浸かりきれなかったこともあり、違和感だけがどんどん高まってしまったわけです。
でも、もし、私に夫や家族がいなくて、夜10時過ぎに1人の部屋で同じ会話をしていたら恋愛しているような気分になったと思います。私も月収1,500万円の話で一瞬、駆け落ちしてみたらどうだろう?とあらぬ妄想にふけりました。
このチャットの直後、たまたま、15年近くの付き合いのあるネット仲間とラインで会話する機会があり、「今はやりの国際軍人ロマンス詐欺みたいね」といわれて、ビンゴ!これだと確信するにいたったわけです。
国際軍人ロマンス詐欺とはどのようなものか
さて、国際軍人ロマンス詐欺という言葉で、目が覚めた私。さっそく検索を開始しました。
調べたところ、最初の四つ星将軍ですが、これはきわめて高いランクで、元帥のようです。そんな人が私とチャットするはずがありませんね。
ともあれ、「将軍」が本当に実在する人物なのかどうか、さらに自分で言うようにその肩書きなのかどうか確認したいと思いました。
検索すると、同姓同名の辣腕の将軍がいました。しかし、今年4月に引退していました。
米国の軍人を語る詐欺というのは、実に被害者が多い、ポピュラーな犯罪のようです。私は初めて、この手の詐欺をscam, 詐欺師をscammerと呼ぶことを知りました。そしてその手口ですが、次のページがひっかけ手口の共通点について書いています。
Military Romance Scams: Are You a Target? | Military.com
- 米軍所属で「平和維持」任務を受けていると言う
- 正直な女性を探していると言う
- 両親、妻、または夫が死亡していると言う。
- 乳母などに世話をされている離れて住む子供がいると言う。
- ほとんど即座に愛を告げる。
- 出会ってすぐ"my love," "my darling"、などの愛情深い言葉で呼びかけてくる。
- セキュリティ上の理由から、電話でもWebカメラでも通話できないと言う。
- 英語と文法が米国育ちにしては変。
- あなたと一緒になるのを待つことができないと言う。
- 外交官を通じて、あなたに何か(お金、宝石類)を送ると言う。
すごい。まさにこの通り!残念ながら、最後の2つに行くまでに交流が終わってしまったのと、私の英語力では彼の英語が変なのかどうかまでは見抜けませんでした。
これはかなり大がかりな詐欺団による犯行らしいです。昔から「ナイジェリアからの手紙」あるいは「ナイジェリア詐欺」と呼ばれる国際詐欺があるのですが、そのヴァリエーションのよう。ですので、多くの場合、犯罪組織は西アフリカ諸国に存在するらしいです。
3~40代以上の孤独な女性がカモにされやすい
被害については、いろいろな媒体で報道されていますので、ご関心があれば次のリンクをどうぞ。
国際ロマンス詐欺~外国の軍人を装い接近 | ニッポン放送 ラジオAM1242+FM93
ニセ米軍人にSNSで結婚詐欺された43歳女性が独白「嘘を追及するとアカウントが消え…」 (1/3) 〈dot.〉|AERA dot. (アエラドット)
40~50代の未婚女性がターゲット! 「国際ロマンス詐欺」の実態:じっくり聞いタロウ|テレ東プラス
女性の米軍人装い詐取疑い 「国際ロマンス詐欺」事件で再逮捕 - 芸能社会 - SANSPO.COM(サンスポ)
外国人、甘い言葉で金ねだる 国際ロマンス詐欺に注意 - 毎日新聞
また、被害にあった日本人500名以上を調査した被害者の傾向に関する調査報告書も出ていました。
国際ロマンス詐欺。被害者510人のリアルな声を集めると、盗られていたのは金銭だけではなかった。【UPDATE】 | ハフポスト
これを読むと40~50代の未婚女性やシングルマザーがターゲットにされ易いのだそう。また、おそらく犯罪者達の母国語は英語ではないので、英米人などのネイティブには怪しまれるため、アジア人など母国語が英語でない人種をカモと狙っているようです。
なお、この話をTwitterで公開したところ、ナイジェリア人になりすまして詐欺を働いて逮捕された米国人がいること、ターゲットは女性だけとは限らず、男性を狙う女性軍人と言ったバリエーションもあることを教えていただきました。
また、出会いのきっかけもTwitterだけでなく、フェイスブックやLinkedInでの誘いが横行しているとも聞きました。上述の「ナイジェリア詐欺」について、詳細な記事をご紹介いただきましたので、ご関心のある方は、次のリンクをどうぞ!
私をひっかけた「将軍」の不運だった点は、私があまり米国文化に傾倒していなかった点でしょう。正直、米国の軍人にあまり魅力を感じません。これがドイツのNATO軍の少佐とか英国の伯爵だったら、はまり方が違っていたかもしれません(わはは、青池保子の読み過ぎ)
3度目のやりとりでお別れ
さて、2回のチャットの翌々日の昼休み、「どこにいる?」みたいにしつこく私を探すメッセージが「将軍」から届きました。ちょうど昼休みだったので、チャットに応じると、その前日、「タリバンが警察を襲撃し、対策会議に追われていたので、連絡が取れなかった」と謝ってきたのです。そして「連絡を確実にするためにハンズアウトのアプリを入れてくれ」と再び言われました。
それを無視して、ニュースを見ると、確かにタリバンによる警察襲撃があり、10人以上の死者が出ていました。そこで、「平和な生活をしているので、前線のことには疎くてすみません」と入れると、「これが昨日の写真だ!」と道路で爆弾がさく裂している画像を送ってくれたのです。
しかし、検索王の異名をとる私。その写真を急ぎ検索してみると、昨日どころか昨年春にアルジャジーラで報道された写真ではございませんか!(笑)
そこでむらむらと意地悪な気分になり
「これは3月の写真では?」
「あなたは私とこうして話をすることで時間を無駄にしているんじゃない?」
と入れてみました。すると、急に言い訳がましく、
「いや、これは間違い。これは昨年8月の写真だった。yesterdayは過去を意味するんだ」と妙な説明が始まりました。
さらに「愛とは、信頼とは」みたいな文章が続いたのですが、残念ながらその時点で13時30分となり私のお昼休みが終わってしまったのです。
続きが気になったのですが、そのまま放置しておいたところ
Okay, if you think i'm wasting my time on you
Fine, i won't talk to you anymore
という切れたようなメッセージが入りました。おそらく私は「カモ不適」と判断されたのでしょう。
さて、これで縁が切れてせいせいした、と言いたいところですが、私が心底後悔しているのは、2回目の初めにうかうかとメールアドレスと本名を教えてしまったことです。しかも、gmailのアドレスって変えることができないんですね。犯罪組織に私の名前とメアドが行き渡ったら嫌だなぁ・・面倒くさいけど、アドレスを入れ替えないと。
「将軍」のTwitterアカウントをもう一度見直してみました。すると2019年6月からTwitterを利用しており実績が何もなかったことがわかりました。ツイート6件、1,256 フォロー中、122 フォロワー。うーん。いかにも詐欺用に作ったばかりのアカウントですね。
しかし、私を含めた122人がおめでたくも相互フォローしてしまっているのです。私の次の誰かが、チャット攻撃を受けていることでしょう。
当局に通報すべきか
そこで、こういう場合、どこに通報したらいいのか探してみました。1つネックとなったのは、私はこの「将軍」を詐欺師と判断しましたが、本当に詐欺師なのか、それとも実際にこの人物は米軍の人なのか、確証が持てないのです。もし、ただの偶然で同じ名前だったりしたら申し訳ないですし、また、私が通報したと思われたくないという気分もありました。
そこで、まず米国の軍隊のサイトをみました。すると、米国人であれば、自宅住所を入力して、米軍のデータベースにアクセスできるようです。
https://www.usa.gov/military-personnel-and-installations
下は空軍らしいです。
https://www.afpc.af.mil/Support/Worldwide-Locator/
残念ながら米国の住所を持たないのでこれは使えませんでした。また、被害に実際にあった場合は次の場所に届け出るようです。
Federal Trade CommissionのConsumer Information
私は英国に住んでいますので、英国の届け出先を探してみることにしました。英国の警察は鉄道の中でも街中でも”See it. Say it. Sorted(見たら、報告しよう、解決だ)“の標語が貼ってあり、市民からの通報を推奨しています。そこでネットで検索すると警察の窓口が見つかりました。
ページを開くだけで右下にチャットボックスが出てきて、「お困りですか?」と声をかけてくれます。そこで、「自分はまだ被害者じゃないけど、どうしたら?」と聞いたら、「それでも報告してほしい。積み重ねればそのデータは犯罪防止や立証に役立つ。それからツィッターはブロックしなさい」と教えてもらいました。というわけで早速届出を送りました。きちんとその日のうちにお礼のメールも警察から来ました。
日本も警視庁のサイバー警察やインターネット相談ができるようです。
このほか、もちろん、Twitterにも通報窓口があるようです。
詐欺師はどうやって金銭を要求するのか
あっけなく初期段階で終わってしまった私のロマンスですが、この先、いったいどうやって私からお金を引き出すつもりだったのか、実はとても興味があります。怖いもの見たさでそこまで引っ張ればよかったかも。もはや、今となっては知る由もありませんが。
しかし、各種ウェブサイト情報をまとめたところ、大きく分けて次の2種類のようです。
1.「箱もの」と呼ばれる方法。君のために「プレゼントを買ったので送る」などと口実をつけて「箱を贈りたい」と提案してくるというものです。被害者は自分の住所を教えて待っていますが、届きません。やがて「途中で税関に引っかかって税金を要求されてしまった」「手続きをするために弁護士費用を用意してほしい」などと言って、役所の担当者なり、弁護士なり、代理人に金銭を渡すよう指示されるというものです。
2.もうひとつは借金を頼まれるもの。「危機的状況にあるので、お金を貸してほしい」あるいは「相続などの手続き代行してほしい」と頼まれるパターンです。危機的な状況とは、「母国に残している子どもと過ごすため戦地から離れたい。(フィアンセとして)上官に退役申請を出してくれ」というもの。「遺産を相続した。軍務中なので代わりに手続してほしい」などと依頼され、被害者が手続きを開始すると共犯者がさも専門業者のような顔で現れて「手数料」や「違約金」などを請求してくるというもの。
いずれも組織的な犯罪なので、手続きを始めると黒人が現れたり、脈略もない西アフリカの国が送金先だったりして、発覚するようです。金銭的な被害を受けずに済んでも、それまで数か月の幸せ気分が詐欺だったとわかる心の傷の方がつらそうな話です。
詐欺師と付き合わないために
さて長々と国際軍人ロマンス詐欺について書いてきましたが、被害者とならないための要点は上述のMilitary.comによれば以下の通り。
- お金は送らない
- コンタクト相手をよく調べる。
- 電話、郵便物を送ってみる。詐欺師は基地にいるので電話できないとか、郵便物が受け取れないというが、本当の軍人なら、専用のAPO(空軍)、FPO(海軍)というアドレスを持っていて、手書きの手紙は総じてうれしがるそう。
- 細かな話の信ぴょう性をチェックする。(詐欺師は大体、細かい話になるとぼろが出る)
- お金や品物のやり取りに第3者を介さない
- 西アフリカに要注意
- 相手の英語の文法的な誤りに注意
- 急展開する恋には要注意
自分には縁がないと思われる方が大半だと思いますが、ロマンスの形をとらないパターンも多発しているそうなので要注意です。
長い話をここまでお読みいただき、ありがとうございました。
下の写真の出所は次のニュースです。
New Dress Blues in 2019? Not Just Yet, Air Force Says | Military.com