英国の庭から~海外生活ブログです

オランダで還暦を迎えた駐妻。英国での5年弱、2度目の駐在生活を終え、オランダ生活も3年を過ぎてしまいました。けたところでロックダウン入り。できる範囲で何をしようかと模索中。

顧客に口座を作らせたくない英国の銀行

このところ外国から英国に来る人〈個人)や企業が英国の銀行で口座を開設したいと思っても、なかなか開設できなくなっています。

特に法人口座については、英国での法人設立後1年以上経っても作ることができないという話も聞きます。

さらに、今年に入って個人口座開設が難しくなったという話が良く聞かれるようになりました。そこでなぜ、英国では銀行口座の開設が難しいのか、これから英国に来る日本人はどのように対処すべきか、わかる範囲となって恐縮ですが、ご説明しましょう。

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個人の口座開設では、現住所の証明が大変

まず、個人の口座から。通常個人が銀行口座の開設を申し込むと、銀行側は次の2つの書類を要求してきます。

1つはその人物を証明する書類。外国人はパスポートや生体認証カードを使います。

2つ目は、現住所を証明する書類。これが大変です。英国には住民票がないので、現住所を証明するためには、次のどれかを提出するようにと言われます。
1.直近の(3カ月以内)にロイヤルメールで現住所宛に送付された公共料金の請求書
2.自治体が発行するカウンシルタックス(住民税)請求書
3.現住所が入った運転免許証
4.各種公的手当(児童手当、公的年金など)の通知書
5.公共住宅(自治体が所有しているもの)の賃貸契約書(家主が個人ではダメ)

これまで、駐在員については、勤務先の会社が発行してくれる手紙等も認められていました。しかし、銀行によってこれを認めないところも増えています。大手のB銀行などは4年前でさえ「自社のデータベースにお得意様として登録されている企業の出した手紙しか受け付けない」と明言していました。たまたま、夫の会社が買収した企業が同行の顧客リストに入っていたため、夫に対しては口座を開設してくれると言われました。

しかし、妻の私については、夫と同居している証拠はどこにもないからダメ。私宛の公共料金の請求書か英国の運転者及び自動車免許局(DVLA)が発行した免許証を取得するまでは、夫婦連名の口座も開設しないとけんもほろろでした。

現住所宛の公共料金やカウンシルタックスの請求書をもらうか、日本の免許証を英国の免許証に書き換えるまでは口座が開けないということは、あとで振り返れば、短い期間なのですが、到着当初はすごく長く感じます。家を借りて、引っ越して、1カ月ぐらい住まなければ請求書なんて出ません。

英国はまだ現金が使えますけど、それでもキャッシュレス化が進んでいますので、デビットカード(そのまま買物などにに使えるキャッシュカード)がないのは不便。さらに、不便なのは、携帯電話の契約ができないことです。使い捨てのスマホを買って凌ぎましたけど、使いにくいし、しょっちゅうチャージしないといけないし。Wifiスポットを求めて右往左往する日々でした。

たまたま、新居にバージンTVのケーブルを引いた際、工事代金の請求書の宛名を自分宛にしたので、それを使い1カ月半ほどで口座開設となりましたけど、今は本当に厳しくなっています。銀行のウェブサイトをみると公共料金の請求書は電気、ガス、水道と地上電話回線(携帯電話はダメ)のもので、ロイヤルメールによって配達されたものだけとなっています。

よく駐在員の方で、ご主人だけ先に赴任し、奥様と子供は後からという例がありますが、奥様が渡英していなくても、全ての公共料金は夫婦連名で契約することをお勧めします。また、公共料金の請求書は、英国内でレンタカーをする際、免許証に加えて提示を要求されることもありますので、「電子化しましょう」という案内が来てもホイホイと応じない方が良いです。

また、引っ越しなどをして、旧住所と同じデビットカードで通販の買い物や定期代などを決済しようとすると、金額が大きくなるとエラーが出て決済不能になります。そうなったら、銀行の窓口にいって、再び身分証明書と現住所証明書を求められますので、公共料金請求書は住民票と考え、どんなに邪魔でも最低1つは郵送のままにしましょう。特に水道料金など半年に1回くらいの頻度で請求書を発行する会社もありますので、比較的発行頻度の高い電気代や電話代の請求書を郵送にしておくと安心です。

 

英国人でも口座開設が困難に

さて、なぜこんな話を今頃書いたかというと、実は娘がアルバイトをしたいから口座を作ろうということになり、先々週から何度も私達、親が口座を持っているB銀行に行っては却下されているのです。娘は英国生まれでこちらの市民権を持っており、英国のパスポート、英国政府が発行した社会保障番号通知書、選挙票を持参しました。親元に同居しているのだから公共料金や住民税は払うはずもなく、運転免許も持っていなかったのですが、選挙票や政府からの通知書には住所も明記されており、選挙票については住所の証明になると政府のページにも出ています。

しかし、娘が出かけた自宅近くの支店の担当者は、「政府が発行した書類では,、住所の証明としては足りない」の一点張りでした。「有効なのは公共料金の請求書だ、それと、使えるかもしれないので学校から本人にあてた手紙を持ってきなさい」と言われてすごすご返ってきました。学校からの手紙なんて最近はすべてメールだし、上述の政府のサイトには出ていません。

そこで「政府のサイトで認めた選挙票でダメだというのは遺憾」というメールを、銀行の相談窓口にプレミア顧客として入れてみました。(プレミア顧客というのは、口座を開設して、1年ぐらいするとプレミアに格上げしてくれるのです。)するとすぐに返事が来て、現住所の証明がないと説明したところ、「それなら顧客である親が紹介する形にしたらよい」というのです。

そこで、今度は私自身の証明書(パスポート、免許証)を持参して、予約を取り、娘と待ち合わせして職場近くの支店に一緒に行きました。予約にあたり、娘は19歳と告げ、必要書類を確認して出かけたのです。しかし実際に行ってみると、「何しに来たの?(予約したのに)、19歳?(予約の時にいったのに)「それなら親の紹介は無効(子供口座は18歳まで)」「本人宛の請求書でなければ住所の証明には不足」とここでも、「公共料金の請求書を持ってこい」の一点張り。予約時の説明は何だったのかと日本だったら怒りまくるところですが、これが英国の「定評ある銀行サービス」のスタンダードです。しかし、ご親切に「ブリティッシュガスなら、電話するだけで名前を併記してくれる。自分も夫の宛名を追加してもらったばかり。1週間ぐらいで届くよ」と教えてくれました。

我が家もブリティッシュガスの顧客なので、さっそく電話してみました。すると、これは契約者である夫と、名前を併記する娘の両方が電話口に出ないといけないんですね。私が電話しただけではダメでした。そこで、出張から夫が帰るのを待って、電話してもらい、娘の名前を併記にしてもらいました。ブリティッシュガスから請求書が届いたらそれを持って口座開設に出かけるようです。(そもそも、日本人だと電話が高いハードルだと思いますので、やっぱり「契約時に連名」がお勧め)

それにしても、前途ある英国人の若者でもこんなに難しいのかと驚きました。もっとも娘はタイミングが悪かったようです。大学進学決定後であれば、英国の大学からの入学許可通知を提示すれば、大学生を対象にしたローン機能付きの口座を開設できるそうです。これからローンを組んだり、稼ぎ手となる大学生への門戸は比較的広いようです。

法人口座開設はさらに困難

さて、次に法人口座ですが、これは本当に難しい。特に中小企業の口座開設は、やみくもにあちこちの銀行の支店に通って、散々資料を要求された挙句、返事もなければ理由もなく却下という話が方々から伝わってきます。

特にここ数年、非常に難しくなったそうです。その背景にあるのが、英国政府が2019年初めから開始したリングフェンス規制の影響です。リングフェンス規制というのは、銀行を大きく2つの種類に分けて、リングフェンス(塀で囲うという意味)で保護された銀行と保護されない銀行とし、前者は、金融危機などで経営が悪化した場合、優先的に税金を投入してもらって保護されるのです。そのかわり、国際金融とか、デリバティブとか、リスクを伴う運用は許されていません。地味な昔ながらの銀行商売だけを行うことになりますので、潰れはしないけど、大きく儲かることもないという状態です。

今年の規制開始までに、大銀行はグループ内で再編を行い、リングフェンスされた銀行には一定預金額以下の個人客と中小企業が、国際活動や債券取引などを許されたリングフェンス外の銀行には大企業や投資家などが顧客として属することになりました。中小企業と大企業の境目の額が、英国にある法人の年間売上高が650万ポンド(約9億円)以上あることです。それ以下は中小企業としてリングフェンス銀行にしか口座を作ることができません。

日本から新たに来た企業の大半は中小企業ということになります。リングフェンス銀行が外国から来た中小企業に口座を作らせたくない理由は、そもそも儲からない構造の上に、英国や米国政府からマネーロンダリング防止のために顧客の与信管理をしっかりやるよう命令されていて、違反すると巨額の罰金を科せられるからです。

その銀行が口座開設を認めた場合、与信調査を行うわけですが、その費用だけで100万円位かかるそうです。儲かるかどうわからないのに調査費用が発生し、その後も口座管理をしなくてはいけない、銀行側がなかなか応じたがらないのもわかります。

だから、よほど知名度が高い、あるいは成長性のある製品を持っているとか、その銀行のアジアの拠点と既に取引があるとか、そういう場合でないとなかなか開設できません。非居住企業はほぼ不可能と言ってもいいでしょう。

また、口座が作れることになったとしても、開設までには、日本の親会社の全ての出資者に関する情報を(英語で)提出するなど様々な要求をされて、数カ月かかるようです。

こういった国際顧客に関する口座開設判断の権限を持つ担当者はロンドン中心部にある銀行の国際部門に2~3人しかいないそうです。だから支店などに口座開設を申し込んでも無駄なのですが、その場で断ってくれることもなく1週間とか10日とか待たせて、こちらが問合せをすると、理由の説明もなく、断られるようです。

個人口座、法人口座、両方からわかることは、英国の銀行は(いやもしかしたら、英国だけではなく、日本の銀行もそうかもしれませんが)、新しい顧客の口座なんて作りたくないのかもしれません。のらりくらりとかわしながら、なるべく作らせない、運が良ければ顧客が諦めて撤退してくれる、それを待っているような状況です。その理由は、儲からないから。さらに言うと、政府の保護対象になったので、それだけ、顧客の身元確認をしっかりするよう求められているのでしょう。

 

日本人や日本企業はどうすればいいのか

1.個人の海外赴任の場合は、本当に銀行口座が必要なのか、よく考えてみる。

特に短期留学や研修などで、こんな悠長なことをしていられないという方も多いと思います。昨今、ほとんど銀行口座と同じ機能をもつフィンテックサービスがいくつかあるようです(近々、調べてご報告しますね)。だらだらと、不愉快な英国の銀行などにかかわっていないで、キャッシュカードを出してくれるフィンテックを利用する方が精神衛生上良いかもしれません。

2.個人口座開設は、最寄りの支店で可能だが、事前に予約が必要。飛び込みではあまり良い対応は望めません。申し込みはインターネット経由もしくは電話で(銀行のウェブサイトに出ています)。口座開設の容易さを比べると、5大銀行と言われるメガバンクよりは、それ以外の銀行の方が審査が緩いと思います。

3.滞在期間によっては、英国の携帯電話会社との契約が得かどうか、検討する必要があります(利用料は日本より安いと思いますので、価格も要比較)。英国の大手携帯電話会社との契約については、銀行口座がないと難しいと思いますが、フィンテック口座で対応してくれるかどうか、あるいは日本のクレジットカード払いが可能かどうか、ウェブサイトで確認できることも多いので、渡英前から研究すると良いと思います。

4.公共料金の契約の際、請求書の宛名は必ず夫婦連名 とする。赴任期間中に口座開設が必要な10代の家族がいれば、それも公共料金の請求書の宛名に含める。請求書は紙媒体で受け取り続ける。

5.企業の場合、何らかの口座がないと、不便です。VATや関税納付、従業員の社会保障費の引き落としに支障が出てきます。こちらは、国際通商省(DIT)内の投資誘致局の銀行専門アドバイザーの助けを借りることをお勧めします。日本にいる間に、駐日英国大使館国際通商部でクライアントとなっておくと本省のアドバイザーにつないでもらえます。

アドバイザーに会ったことがありますが、相談企業の業務内容や管理職の構成などをみて、最も適した銀行を考え、その国際業務担当者を紹介してくれるそうです。

ただし、その方でも、昨今は銀行口座開設が不可能と判断するケースが多いようです。その場合、同省とフィンテック会社が共同で作った「なんちゃって銀行口座サービス」を紹介してくれ、それにより、ほとんど銀行口座を持っているのと同じ作業が可能になるそうです。最初の数年は、それで、事業を運営し、英国籍の従業員が増えて、売り上げが拡大すれば、英国銀行に口座が作ることも可能だそうです。

 最後の部分、これと類似した話をどこかで読まれた方・・「あなたはもしかして〇さんでしょ」と思われたかもしれませんが、偶然ということで‥(笑)