先日、トゥールーズ名物のスミレの話を書きましたが、もう一つの名物、パステルについてご紹介します。トゥールーズに旅をするまでパステルは柔らかい色合いのクレヨンに似た画材だと思い込んでいました。しかし、フランス語には画材の他にもう一つ、布を青く染めるための染料が取れる植物の意味があったのです。
パステル(Pastel、英語ではWoad、日本語ではホソバタイセイ、学名はisatis tinctoria)はアブラナ科の植物です。
パステルは古くエジプト時代から染料として使われてきたようです。しかし。気候や土質の点から、どこでも栽培できるというものではなくようで、12世紀頃までにトゥールーズの東、ロラゲ(Laurages)地方が向いているということで生産されるようになりました。その後、トゥールーズとアルビ、カルカソンヌにはさまれた三角地帯が一大生産地となり、この地域は ペイ・ド・コカーニュ (豊穣の地)と呼ばれたそうです。
当時、この地方では繊維産業はあまり盛んではなく染料への需要は小さかったそうです。しかし、その時代にフランドルやリヨンなどでウールの織物など繊維産業が発達し、貴重な青色のパステルの需要が拡大し、遠くリヨン、フランドル、スペインや英国などまで輸出されたそうです。14世紀にはアルビの商人たちがパステル貿易を牛耳っていたらしいのですが、15世紀にはトゥールーズの商人に移ったそうです。
トゥールーズのバステル産業は15世紀がピークで、16世紀後半になると傾き始めたようです。パステル商人がお金持ちになって、生産地から離れたトゥールーズの街中に大邸宅を建設したり、政治的な野心を追求してみたりして、事業への投資を怠ったのが最大の原因のようです。しかも、利益を上げるために染料に不純物を混ぜて信用を落としたり、宗教戦争が起きたりということで衰退したようです。また、17世紀あたりから東洋からより簡単に濃い藍色が出るインディゴ染料が入り、パステル生産は急速に廃れてしまいました。ナポレオンが一時、殖産振興の観点からパステル栽培の復活を試みたらしいのですが、その失脚で頓挫したともあります。
しかし、20世紀の終わり頃から先日のスミレ同様、町興しの一環として手掛ける人が出てきて、2000年代になって急速に広がったようです。今では染料やファッション製品だけでなく、パステルを原料とした化粧品まで作られて販売されています。
さて、パステルがどのような色合いなのか、ネットでうまく伝わりにくいのですが、藍色でも水色でもない、柔らかいブルーです。これが本当に素敵。ウェッジウッドのジャスパーブルーに似ている色かな‥という気がします。そして、トゥールーズの町の建物の多くは鎧戸や木の扉がパステルブルーに塗られているのです。
街中には、パステル染料で染めた製品を専門に取り扱っているブティックやアトリエがあって、お値段は安くないものの本当に素敵。1回目に訪れたときは、友人に基礎化粧品を、私にハンドクリームを買いました。秋物のウールのセーターなどが沢山売っていてちょっと高かったのですが、今思うと買ってくればよかった。2回目に行ったときは8月だったので、コットンのスカーフを1枚買いました。
↓上とは違うアトリエのショーウィンドウ
パステルから青い染料を取るプロセスは以下の通り。
1. 2~3月に種まき
2. 6~11月に葉を収穫し、葉を洗う。
3. 葉を6カ月間、乾燥させる(この間に1回目の発酵が起こる)。
4. 乾燥した葉を直径10~15cmの球状にまとめて、さらに乾燥させる。このボールはcoucagno またはcocagnesという名称。
5. 乾燥したらボールを粉砕し、水を加えると2回目の発酵が起きて、黒いざらざらしたペーストが出来上がる(agranatと呼ばれる)。
6. agranatから抽出した緑の液体が酸化することで青い染料となる。
1年以上かかる作業で、かなり人手がいるようです。さすがにスミレと違って、自分でパステルを育てて染料をとって、布を染めるという大事業に着手する気は起きませんが、もし自分が、農家とか、ファッション関係の実業家なら考えてしまうかも。
トゥールーズの主なパステルのお店のウェブサイトは以下の通り。
https://www.grainedepastel.com/
https://www.bleudecocagne.fr/fr/
それと郊外にパステルの博物館もあるようです。
https://terredepastel.com/resort/le-museum-du-pastel/