英国の庭から

欧州調査歴25年のリサーチャー兼駐在員妻です。英国在住歴は通算10年。庭仕事のかたわら、言いたい放題つぶやきます。

The Foundling Museum(捨て子博物館)

 

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この博物館は、1700年代に英国で初めて設立された捨て子(Foundling)養育院に関する展示をしています。職場の近くにこんな博物館があるとは知らず、たまたま大手法律事務所のメルマガで、今秋行われている展示 ”LADIES OF QUALITY & DISTINCTION”(傑出した淑女達)が紹介されていたので、見てきました。

 

昔のヨーロッパでは貧困や未婚の母といった理由で捨て子が多く、修道院や尼僧院などには引き取り専門の扉が設けられていたところもあり、各地でこうした史跡や展示をみることができます。

 

1700年代のロンドンでも多くの子が捨てられていました。当時の英国は乳幼児死亡率が極めて高く、特権階級に生まれた子供でさえ、成人できるのは半分以下でした。ロンドン市内ではその率はさらに高く、4人に3人の子が5歳未満で死んでしまったようです。街中には野良猫のように暮らす浮浪児があふれていたようです。

 

この状況に対して捨て子養育院を作りたいと考えたのが、慈善事業家サー・トマス・コラムでした。しかし、当時の英国では、公益法人を設立するには、国王に請願書(petition)を提出し、勅許状(Royal Charter)を発行してもらわなくてはならず、キャロライン王妃の侍女である社交界の有力夫人に嘆願書への署名と出資を頼んで回ったようです。(↓なぜか、皆、赤いマントを身に着けています。この時代の正装でしょうか)

 

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今回の展示会は、嘆願書への署名に応じた21人の女性達の肖像画を展示するというものです。大変興味深かったのは、女性達の人生が紹介されていたことです。公爵夫人8人、伯爵夫人8人、男爵夫人5人、いずれも高い地位と潤沢な資産を持っていた幸運な一握りの人たちです。でも、幸せな結婚生活を送った人は少なく、40歳も年上の男性に後妻として嫁がされた人、夫が愛人一辺倒で結婚早々から別居となった人、未亡人生活が長かった人など、その人生は様々でした。しかし、その多くは子を失う悲しみを経験しており、人生を通じて、資金を援助したり募金を集めたり、施設の向上に向けた活動に貢献したそうです。

 

特別展示とは別に、養育院そのものについての常設展示もあります。親の多くは、いつの日か引き取るときの手掛かりとなる小さな品をつけてわが子を託したようで、展示された指輪や傷をつけたメダル、ボタン、木の実などに時代が反映されています。子供たちが使った小さなベッド、制服なども展示されていました。

 

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母親が子を引き取る場面を描いた絵もありましたが、そのようなことは稀だったようです。引き取りに来たら数週前にわが子が亡くなっていた例、いつかは親が迎えに来るかもと夢見ながら夭折した例など、悲劇は無数にありました。しかもこの養育院、捨て子を育てるという点では画期的だったのでしょうが、通常は9歳で、下働きなどの奉公へ出されるのが常だったそうです。つくづく現代に生まれただけでも幸運だったと実感しました。