英国の庭から~海外生活ブログです

オランダで還暦を迎えた駐妻。英国での5年弱、2度目の駐在生活を終え、オランダ生活も3年を過ぎてしまいました。けたところでロックダウン入り。できる範囲で何をしようかと模索中。

暗く臭かった19世紀以前の夜

欧州の名画やドラマを見るとその暗さにうんざりすることがあります。以前、欧州人の眼は光を捉える能力がアジア人とは違うのでは?と書いたことがありますが、彼らの眼を通しても、やっぱり暗かったようです。

部屋を明るくするというのは、大変お金のかかることで、日が暮れたり悪天候になると、庶民の多くは鼻をつままれてもわからないほどの、暗闇の中で生活していたようです。さらにかわいそうなことに、その灯り自体がどうやら悪臭を放っていたようなのです。

 そこで今回は、西洋の灯りの歴史について、調べてみました。 

 

19世紀以前の光源は炎

人類は19世紀末に電球を実用化するまで、光を炎からとっていました。その中でも中心となったのはです。先史時代から20世紀の初めまで、油を容器にいれ、草や紐で作った芯の先に灯った火が夜の闇を照らしていたのです。油には植物油と獣脂や魚油がありました。石油が発見されたのは19世紀半ば、地上に油が湧いていた中東など以外では、使われることはありませんでした。

さて、油といっても、植物油は悪臭が少なくてカスも出にくいのですが、木の実や種などを集めて搾り取らなくてはいけないと手間がかかるため高価でした。そこで、獣脂や魚油を容器に入れ、芯を入れて燃やしたのですが、悪臭を放つうえに、カスが出易かったそうです。しかし庶民としては多少臭くても安い方がいいわけで、庶民の夜は薄暗いだけではなく、部屋に悪臭が立ち込めていたようです。

日本でもこの事情はほとんど同じでした。行燈や瓦と同じ素材で作った甕型の照明器具に油を入れて燃やしたのです。その明るさは豆電球1個程度だったそう。日本の庶民は燃料として魚油を、大名屋敷や遊郭などは菜種などの植物油を使っていたそう。

西洋では獣脂が多く使われ、富裕な屋敷の厨房の召使は、キッチンで出た獣脂をもらって売ったり、実家に持ち帰ったりしていたようです。

 

1カンデラとは蝋燭の明るさ

ろうそくも早くに発明され、エジプトや中国の古代文明で使われていたそうです。西洋ではローマ時代から蜜蝋燭(みつろうそく)を使っていました。これは悪臭も少なくかなり明るいのですが、非常に高価なため、高位の王侯貴族でさえ、特別な機会に使うといったものでした。

蜜蝋以外のろうそくは、やはり獣脂から作ったもので、安いといっても、ランプの油よりはずっと高かったようです。ルイ14世の家臣は、国王から晩餐に招かれる都度、国王への恭順の証としてろうそくを1本持参したそう。獣脂であってもろうそくは高級品でした。

そうした中、英国の庶民が使っていたのはイグサ(灯芯草 、英語でrush)に獣脂をしみこませた棒rush dipsです。夏に成熟したイグサの茎を女子供が集めて干しておき、そこに獣の脂肪を含ませてつるして固めたものです。羊の脂肪が固まりやすくて好まれたそうです。だから燃やせば羊の臭いがプンプンと漂ったはずです。1つのイグサは18インチ(46cm)の長さで(専用の長さをそろえる器具があった)、だいたい1時間位で燃え尽きてしまったそうです。

1780年の場合、その価格は11本のrush dipsで1ファージングだったそう(いくらかよくわかりませんが)。ちなみに獣脂のろうそくは1本で2時間は燃え、価格は1本で2ファージングだったそうです。

さて、ろうそくの明るさですが、明るさの単位には、カンデラ、ルーメン、ルクスなどがあり、それぞれ意味が違うのだそうです。その中で1カンデラと言うのが一般的なろうそく1本の明るさのこと。単位が違うので比較しにくいのですが、25ワットの電球の10分の1ぐらいの明るさだそうです。(暗いですよね)

 

19世紀末に電球が登場

19世紀の後半になると、米国で石油が発見され、石油から分離されたケロシンを使ったケロシンランプが登場し普及しました。これがろうそくの3倍くらいの明るさだったそうです。

さらに白熱ガス灯が1850年代頃から町に広がりました。その明るさはろうそくの5倍位になりました。ロンドンの下町で切り裂きジャックが連続殺人を犯したのが1888年で、ロンドンの街角にはガス灯が灯っていたはずですが、暗かったと思います。犯人は真夜中に帰宅しようと歩いていた売春婦を次々と刃物で襲ったわけですが、被害者にしてみたら、いきなり暗闇から何かが来たと思った瞬間には刺されて殺されてしまったということのようです。

1879年にはトーマス・エジソンが実用的な電球を発明し、20世紀初めに急速に広がりました。それでも、ろうそくの10倍くらいの明るさで、25ワットの電球より暗かったようです。

1907年に白熱電球が発明されてようやくろうそくの16倍位の明るさになったそうです。電球発明後の時代に生まれて、今はLEDと言うもっと明るい電球があって、本当にありがたいことだと思いますね。

というわけで、今回は昔の庶民は暗く悪臭立ち込める長い夜を過ごしていたというお話でした。

f:id:ouiouigarden:20210319070955j:plain

高島野十郎(1890-1975)の蝋燭。高島野十郎展のウェブサイトから。https://www.tnc.co.jp/takashimayajuro40/