今日は、重たい話題です。臓器提供に関する英国での法改正の話です。もしかしたら、不愉快に思われる方がいるかもしれません。あらかじめお詫びしておきます。
2020年以降、イングランド在住者は自動的に臓器提供者に
先月15日(2019年3月15日)、ブレグジット一色に報道が埋め尽くされていた中、英国議会では臓器提供に関する1つの画期的な法律が可決され、女王の裁可を経て成立しました。この法律はイングランドだけに適用される法律。イングランドに1年を超えて居住する成人が事故などで脳死状態になった場合、あらかじめ本人が「臓器提供を拒否する」という意思表示を国民保健サービス(NHS)に登録していなければ、臓器提供に同意したとみなすというものです。正式な名称は、2019年臓器提供(みなし同意)法というもので、2020年春から施行されるそうです。
法律はこちら。
これはかなり、大胆な法律です。
対象となるのは、
1.成人(18歳以上)
2.イングランドに1年を超えて居住している人
対象とならないのは、
1.未成年者(18歳未満)
2.(知的障害等で)臓器提供の意味が理解できない人
3.死亡時にイングランド居住1年以下の人
日本人駐在員も1年以上滞在している場合、臓器提供を拒否するためには登録が必要となります。次のサイトをご確認ください。
https://www.organdonation.nhs.uk/about-donation/how-the-law-is-changing/english-organ-donation-law/
毎年400人が待機中に死亡
英国では現在、約6,000人の人が臓器提供を待っています。しかし、提供がないまま亡くなる人が毎年400人ほどいて、2018年は411人だったそうです。臓器提供率は年々上がっており、2015年の60%から2018年には67%になりました。しかし、それでも足りないのだそうです。
多くの人が臓器提供の意志を明確にせずに亡くなるため、家族の承諾を得るのが困難です。これは日本同様です。そこで、家族に承諾を得ないで済むよう、生前に拒否の意向を積極的に示した人に「オプト・アウト」を認め、それ以外は承諾したとみなす法律を作ったのです。
これは、キーラちゃん(9歳)という交通事故で脳死になった女の子から臓器提供を受けて元気になったマックス君(10歳)の両親が、もっと臓器提供者を増やそうと呼びかけたことで立法化したそうです。法律が成立するまで「マックス&キーラズ」法案と呼ばれていました。
臓器提供は難しい話です。もちろん、臓器が必要な人に提供されるのは当然だし、自分が脳死になったら提供してもらって構いません。とはいうものの、家族、特に子や孫の臓器を提供するよう迫られたら逡巡しそうです。というのは、脳死判定を信じてあきらめられる気がしないのです。過去に何年も植物人間だった人が目を覚ましたりという例もあるし、大事な身内だとそういう希望を捨てられないと思います。
こうした家族の迷いは当然だし、しかも最も厳しいタイミングでその選択を迫るわけです。それを回避するのが今回の立法の目的。臓器提供に応じることをデフォルトとすることで、家族に選択の苦痛を味合わせず、しかもより多くの臓器を確保できるのです。
1万人以上の待機者に100人に満たない提供数の日本
日本は英国と比べると圧倒的に臓器の提供者が少なく、脳死段階での提供者は年77人(2017年)と100人にも達していません。英国より人口が多いので1万人以上の待機者がいます。おそらく毎年500人位は待機中に亡くなっているでしょう。
臓器移植Q&A|臓器移植データ(我が国の移植の現状(データ編))|日本移植学会
日本臓器移植ネットワーク | 移植に関するデータ | 移植希望登録者数
提供数を増やすために、日本こそ英国のような法律が施行されるべきだと思います。英国のように、臓器提供がデフォルトで、拒否をオプト・アウトできるようになったら、家族も判断しなくてすむので、多少、罪悪感も減るかもしれません。
「脳死移植番組で苦痛」提供者両親がTBSと病院を告訴
しかし、そんなことを考えながら、先週末の日経新聞をみていたら、日本での臓器提供にまつわる告訴の話が出ていました。2017年5月に岡山大学病院で実施された脳死肺移植を取材した2017年7月に放送されたTBSのテレビ番組の内容が提供者の両親に精神的苦痛を与えたとし、番組を制作・報道したTBS、執刀医、移植をアレンジした日本臓器移植ネットワークに対して損害賠償を請求しています。
番組では、提供した肺がモザイクもかけずに映し出され、執刀医が「もくろみ通り」「軽くていい肺」とつぶやいたのがそのまま報道されたとのこと。さらに、提供者の身元がばれかねない内容だったとしています。
これでは、提供者の両親が怒るのも無理はないと思います。親御さんは子供の笑顔を思い出したいのに、肺の画像ばかりがちらつくと訴えています。その意味ではTBSの番組制作者はあまりにも無神経。医師のセリフについては、編集しなかったTBSが悪いのではないかと思いますが、まあ、あまり気持ちの良いセリフではありません。
そうでなくても子供の臓器の提供が少ない中、敢えて応じた家族に苦痛を味合わせるというのでは話になりません。裁判に関連してマイナスの報道が続けば、さらに提供者が減ってしまいかねません。
この話をみていて、もうひとつ日英の違いを感じたのは、英国では提供者のキーラちゃん、受け取り側のマーク君を含め、写真や家族が公開され、臓器を提供したことで、誰からのとがめを受けることはありません。日本では臓器を提供したことで、親族や近所などから家族が責められる可能性があることです。告訴に踏み切った理由に個人情報やプライバシーの侵害があげられているのも、英国なら誇って良いはずの子供の臓器提供が、日本では言い訳をしなくてはいけないから。実に不条理です。
というわけで、臓器移植という重たいテーマ、あれこれ考えて、ちょっと暗くなってしまったのでした。(ここまでお付き合いいただいた方、お疲れさまでした)
これ、何の花かわかりません。実ができる前に食べられちゃうし。