英国の庭から

欧州調査歴25年のリサーチャー兼駐在員妻です。英国在住歴は通算10年。庭仕事のかたわら、言いたい放題つぶやきます。

「最後のワラ」で辞職すれば、不当解雇に

読者の皆さん、あるいはそのお知り合いの中には、ブラック企業とは言わないまでも、パワハラ上司による断続的なイヤミ、同僚からの理不尽な嫌がらせなどを日々味わっている方がいるかもしれません。それによって自殺に追い込まれたというニュースも時たま耳にします。でも多くの場合、つらくて自己都合で退職というケースが多いのではないでしょうか?

 

英国では、「辞めろ」といわれなくても「辞めたくなるような仕打ち」を従業員が他の従業員に継続的にしているのを見逃した経営者は、仮に被雇用者が自主的に退職したとしても「不当解雇」として罰金を払う義務があります。

 

今日はこれについてご紹介しましょう。

 

英国の諺で、「最後の藁(ワラ)一本が駱駝(ラクダ)の背を折る」

It is the last straw that breaks the camel's back
というものがあります。

 

これを省略して「最後の藁”the last straw"」という言い方もします。

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ラクダの背に少しずつ藁を載せていくとします。1本1本のワラは軽いので、あまり意識しませんが、どんどん載せていけば、いつかラクダの背中を折るほどの重量になってしまう、ということです。多くの場合、人間関係で使われます。

 

日本語で言うと「堪忍袋の緒が切れる」と同じような意味です。だから、別に英国に限ったことではなく、世界中でたぶん同様の表現はあるのではないかと思います。

 

さて、この諺が英国では雇用法の不当解雇に関する思想として使われているのです。

 

最初に挙げたように、例えば、あなたの職場の上司に、パワハラまがいの嫌味なオヤジがいたとしましょう。オヤジじゃなくて、いじわるなお局様でもいいです。これが、機嫌に波があり、数日に一回、とても不愉快でやる気がなくなるような要求とか侮蔑的な発言をしているとします。

 

そんな状況が数カ月、あるいは長期間にわたって続いたある日、あなたはもう限界にきてしまい「もういいです。辞めます」と自分から辞職届を出して退職したとします。日本ではこれは自主都合の退職であり、パワハラ上司は何の咎めも受けません。しかし、英国ではこれには、「最後の藁」の法則が適用されます。

 

英国の1996年雇用権法第95条(1)(c)では「雇用主は被雇用者を解雇していないが、被雇用者が辞職し、その理由が雇用主の行為のせいだったと証明できる場合に不公正解雇とみなす」となっており、英国政府のウェブサイトによりますとこの状況を「みなし解雇(Constructive dismissal)と呼ぶようです。なお、みなし解雇と認定されるためには、こうした辞職の理由が、「イジメ」「ハラスメント」「説明ない転勤」「給与の突然の不払い」「説明ない業務内容の変更」など深刻な理由であり、それを証明できなければいけません。

 

不公正解雇と認められると、2018年度(2018年4月~2019年3月)の場合、給与の52週分または8万3,682ポンド(約1,200万円)のどちらか低い方を上限として受け取ることができます。弁護士の先生に手数料などを払うとしても大きいですね。

 

これは日本にはない制度です。日本でこの制度があったら、私もあの時、辞職して、不当解雇の補償金を受け取って、別の人生に乗り出していたかもしれないなぁ‥と思うことがあります。私が就職したばかりだった昭和の最後の数年というのは、今では考えられないほど、理不尽な言動が職場でまかり通っていたので。

 

この制度が日本に導入されれば、相当、「みなし解雇」と認められる人が多いはずだし、パワハラ上司も減り、自殺者も減るかもしれませんねぇ。

 

逆にこれをお読みの方の中に、英国で企業の経営層に属している方は要注意です。本人は親しい仲のジョークのつもりでも、従業員はたぶん記録をとっているはずですし、その多くがSNSで公開されている可能性もあります。

 

上の写真はWikimedia commonsから。イスラエル政府所蔵の写真のようです。