英国で日常生活を送っていると、その不便さ、不合理さに呆れてしまうことが頻繁にあります。正直、ありすぎてすぐに忘れてしまうのが悔しいところ。また1つ思い出しました。今日はその話など。
英国の洗面所には、髭剃り用以外のコンセントがない
英国のバスルームですが、あ、日本人が頭に浮かべるお湯が、じゃぶじゃぶ床に流れる浴室ではなく、欧米のホテルのような、便器と洗面台と風呂桶がおいてある洗面所のことです。そこには髭剃り用以外のコンセントはありません。洗面所でドライヤーも掃除機も使えません。当然のことながら、日本で普及している暖かい便座、ウォッシュレット、シャワートイレの類も設置不能です。
法律でコンセントの設置を禁止
洗面所にコンセントがない理由は、法律(現行のものは2010年建築規則)で禁止されているからです。厳密に言うと、電気のコンセントは、浴槽やシャワー、洗面台から3メートル以上離れていなければいけないことになっています。電気シェーバーの普及後、それではあまりにも不便ということになり、シェーバー用の弱い電力のコンセントのみ、水から60㎝以上離れたところに設置可能というように法律が改められました。
法律の背景には、
水+電気=感電≒死亡
という英国人の強い懸念があります。バスルームの照明用のスイッチでさえ、壁についていると、感電のリスクがあるとして、天井からぶら下げている家も多いです。
この浴室コンセント問題について、ネットで検索すると、英国に住み始めた米国人やドイツ人の素朴な質問が出ています。皆、「母国では特に問題もなく、大丈夫だったのになぜ?」と質問しています。
電気の危険性に対する恐怖感が半端じゃない
しかしそれに回答する英国人は、電気イコール危険の一点張り。米国人に対しては、120Vと240Vでは、危険度が違うとまことしやかに語り、220Vで問題がなかったというドイツ人に対しては、フランス人の女の子がお風呂にドライヤーを落として感電して死んだとか、米国人の有名な俳優は天井の電球を取り換えて死んだとか、世界中で起こった昔の感電事故まで引っ張り出して反論し、お風呂場にコンセントを設置すると感電するから危険だ、と説得にかかります。
このあたり、「頑迷固陋(がんめいころう)」という単語が頭をよぎります。確かに安全かもしれませんが、不便さとの兼ね合いとかそういったことには全く耳をかたむけない。
何となく国民の8割以上が「それって正しい?」と疑問を抱きながら、その是非やマイナスの影響を吟味することもなく、ブレグジットに進んでいる現状に通じるような気がします(英国人が聞いたら余計なお世話でしょうが)。
自宅バスルームに電気をひくには当局の認可が必要
業界団体(NICEICとELECSA)が作った浴室周りの電気安全規制についての資料がありました(以下がそれです。ご関心のある方はご覧ください)。
https://www.niceic.com/medialib/www.niceic.com/PDF/15868-FactSheet-Bathroom-A4-4pp-web.pdf
コンセントをバスルーム内に設置することは違法でも、業者に依頼すれば、照明だけでなく、テレビなども取り付けてもらったり、浴室内の戸棚の中に歯ブラシ充電用のコンセントを設置するといったことは可能なようです。お金持ちは、ある程度、不便を解消できているのかもしれません。
しかし、厳格な建築規制により、家の中の電気回線をいじる場合には、認可業者を使うか、DIYでの工事後、当局の承認を取るよう家主に義務付けられています。技術の進歩により、昔と比べれば、感電リスクはある程度減っていると思いますので、この法律は、当初の安全確保を離れて、業者保護に移っているのではないかなぁとも思います。
上記の写真の出所は以下のところ。