先日、ブレグジット その1でEUと英国の交渉については「すべて合意しなければ1つも合意とならない」という方式だと書きました。だから、ブレグジットの行方がどうなるかは、交渉妥結までは誰も何もはっきりしたことはわからないのです。
しかし、現時点で既にはっきり決まっていることがあります。それは、離脱後の英国の法律がどうなるかということです。なぜ、決まっているかというと、英国政府と議会が最優先でEUの影響を受けた法律に関するルールを定めたからです。そうしないと、離脱したその瞬間から英国内が無法状態となり、大混乱に陥る恐れがあるからです。
英国はEU(当時はEC)に加盟した1973年、EUの法律を英国法よりも上位に置くことを定めた法律「1972年欧州共同体法(以下ECA1972)」を施行しました。
EU はそれ自身の設立に関する条約などとは別に、加盟各国に影響を与える立法を行っています。いくつか種類がありますが、「規則」(regulation EU加盟国すべてに適用される法律)と「指令」(directiveこれは一定の決まり事をEUが定め、その決まり事を満たす範囲で期日までに(多くは3年以内)に国内法として加盟国に立法させるもの)の2種類が加盟各国の法律に大きな影響力を及ぼしています。英国についても、規則が法律としての効力を持っていますし、指令に基づいて立法した法律もたくさんあります。
その数がいくつぐらいになるかと言うとに、規則だけで1万2,000、指令等に基づいて国内で立法化したものが約7,900あるそうです。規則というのは、例えば化学品の取り扱いを定めたREACH規則、今年5月に施行された個人情報保護に関する規則(GDPRと呼ばれていますが)などが有名です。
ブレグジット国民投票を前に、離脱賛成派は「主権を取り返せ」「コントロールを英国民に」をスローガンとして掲げたのですが、一方的にEUによって定められた法令の多さに、英国民が辟易としていたことは否めません。
とはいうものの、EU離脱後、直ちにこの2万近くの法令が無効になってしまうと、大変なことになります。そこで、今年6月26日、英国議会は2018年EU離脱法(European Union (Withdrawal) Act 2018)を施行しました。これは離脱後のEU規則やEU由来の法令の扱いを定めたものです。
その中で、離脱と同時に、つまり今のまま交渉がまとまらなければ2019年3月29日夜11時(英国時間)に①EU法の上位を定めたECA1972を廃止すること、②EU規則などの既存の法律は、原則として、そのまま英国法となり効果を持続することを定めています。
一部例外があるかもしれませんが、法律的には離脱しても当分(法改正が行われない限り)今までと名称もかわらず、文章も変わらない法令がそのまま効力を持ち続け、ルールは変わらないということになります。ただし、離脱後に新たにEUが定めた規則は、英国には適用されませんし、EUの指令に従って立法する必要もありません。
さて、それでは離脱後に移行期間が設けられる場合どうなるのでしょうか? 現在、交渉中のEU離脱協定案によると、その場合は、移行期間が終了する2020年12月末日に上記の法律の効果が始まることになり、それまではECA1972が効果を持続し、EUが施行する規則は英国に適用され、移行期間の末までに期限がくるEUの指令については立法化する義務を負うようです。
今日は少し難しくなってしまいましたね。
※この分野ご関心がある方は次のURLをご参照ください。
2018年EU離脱法
European Union (Withdrawal) Act 2018
EU離脱に関する英国EU離脱省資料
Legislating for the Withdrawal Agreement between the United Kingdom and the European Union - GOV.UK
2018年3月時点で合意した英国政府とEU間の離脱協定案
https://ec.europa.eu/commission/sites/beta-political/files/draft_agreement_coloured.pdf
英国政府が発表したノーディールに向けた準備シナリオ
UK government's preparations for a 'no deal' scenario - GOV.UK
法令の数に関する政府の答弁(2.6参照)
Legislating for the United Kingdom’s withdrawal from the European Union - GOV.UK