英国のEU離脱(ブレグジット)交渉が正念場を迎えています。英国が2016年6月に国民投票でEU離脱を決定して以来、メイ首相は「ブレグジットはブレグジット」という言葉をお経のように唱え、ブレグジットに向けて、まい進してきました。
しかし、交渉開始当初から予想された通り、交渉は難航、肝心な項目はほとんど手付かずのまま、交渉期限の今月末を迎えようとしています。メイ首相としては今月18日からのEU首脳会議で、何とかこの膠着状態を打開したいところです。EUとの交渉は「一項目でも合意しなければ全項目でご破算になる(All or Nothing)」という方式で行われていて、現在、一項目どころか何十項目も行き詰まった状態だそうです。
10月末が交渉期限とされているのは、合意後、協定案をEUと英国双方で批准作業を行うのに約5カ月を要することから逆算したものです。これに間に合わないと、英国は2019年3月29日23時にEUとの間に離脱協定を締結できないまま、EUを離脱することになるわけです。これを「ノーディール(合意なき離脱)」と呼びますが、いよいよその可能性が高まってきました。
離脱協定なしで離脱してしまうと、これは何の約束もないまま離婚するのと同じで大変なことになります。その後に設けられようとしていた2020年末までの移行期間がなくなってしまいますし、離脱協定の中に、英国は今まで通りEU諸国との間で関税なしの貿易が続けられるような措置を盛り込めるつもりでいたのですが、それもなくなってしまいます。つまりEUとの間に即、関税が発生するということです。この二つがやはり一番大きな問題だといえるでしょう。
2019年3月30日からいきなりEUとの貿易に関税や通関業務が発生するとどうなるでしょう?EUは英国にとって貿易の約半分を占める相手です。貿易というのは、距離の近い相手に重たくて運びにくくて腐りやすいものを依存する傾向があります。そうした物品を中心に、この30年間、国境審査をしないで物品を流通させてきたわけです。
いきなり通関作業を復活させても税関職員の数がまず足りません。その結果、英国・EU双方の港に向かう道路は大渋滞し、生ものは腐り、バイオ医薬品とか放射線治療用品とか数日のうちに枯渇するといわれています。
実際に2015年には、フランス側カレー側でストだとか、難民が殺到しただとか、理由はよくわかりませんが通関業務が滞ったため、英国側のドーバー海峡に向かうM26高速道路に4,500台のトラックが動けなくなり、数百メートルおきに仮設トイレが設置されるという異様な事態になりました。
昨年は航空税関の通関システム変更に伴い航空引っ越し貨物の受け渡しに1カ月以上かかるというトラブルもあったと聞いています。
ブレグジットは3月末、英国では生鮮食品がまだ収穫できない時期です。これが夏なら家庭菜園でトマトでもとって食べるのでしょうが、困ったことになるでしょう。
他にも航空条約がEU単位で入っているために英国からの離発着ができなくなるとか、Spotfyが使えなくなるとかいろいろな噂が広がっています。
8月から英国政府も国民に「知らなかった」「教えてくれなかった」と後で言われたらまずいと思っているのか、ノーディールへの備えのような警告書を発表し始めました。
また、最近では、スーパー大手のテスコやAldiが食料の在庫を積み増しすることを検討しているとか、様々なニュースが流れてきています。
だんだん、きな臭くなってきました。でも、英国人は皆「何とかなるんじゃない?」と極めて楽観的です。いや、最悪のことが起こるとわかっていながら、第一次世界大戦に進んでいった時期と、国民投票以来の今の英国はとても似ているそうです。いよいよ怖くなってきました。